知って欲しい自然農法のこと

畑といえば、耕された土に同じ作物が並んでいる風景を思い浮かべませんか?
栽培されている作物以外の植物は見かけません。
これは実はとても奇妙な光景です。
自然界にはこのような土が露出した場所は本来ありません。

通常は多様な植物によって覆われていて、土の上も土の下も、植物と土壌生物たちが
多様性のある世界で共生関係を築いて均衡を保ってています。
自然と同じように植物を育てる
これが自然農法です。

肥料を施さなくても作物が育つ理由

植物は『光合成』によって自ら栄養を作り出すことが出来ます。
光合成』とは、植物が太陽光のエネルギーを使って、
根から吸い上げたと空気中の二酸化炭素(CO2)を、
糖質(有機物)などの栄養と、酸素(O2)を作る働きをいいます。

ただ、植物は光合成で作る栄養だけでは成長していくことは出来ません。
その他の栄養(窒素・リン・カリ等)を根を通じて土壌から吸収する必要があります。
農業ではこの栄養を“肥料”として人が根の周りに与えてあげます。
一般的な農業の肥料は根が効率的に吸収しやすいように高濃度に化学合成された、
謂わば栄養剤のような物が使われます。
一方、有機農業では動物(牛・豚・鶏)の糞等を発酵させた“堆肥”が主に使われます。

いづれの農業も人が根の周りに肥料や堆肥を与えてくれるのですから、
植物は労せず栄養を根から吸収することが出来ます。
肥料を与えられた植物は、根を必要以上に伸ばしません。
余計なエネルギーを費やすくらいなら茎や葉を伸びした方が良いからです。

一方、肥料を与えられない森の木は生きるために
土から養分を得ようと必死で根を広く深く張りめぐらします。

自然の土壌には豊かな生態系があり、植物と土壌微生物の共生関係が確立されています。
およそ4億年前、海洋に棲んでいた水生植物が乾燥した陸上に進出する際、
先に上陸していた菌類からミネラルや水分を得る共生システムが始まりでした。

先ずは土壌微生物の働きから見ていきましょう。
土壌微生物の主食は有機物です。
糸状菌(カビ)は有機物を腐らせ、その腐敗物を放線菌が発酵、
そして細菌が発酵された有機物を分解し、土の栄養素に変えて行きます。

次に、植物の方は光合成で生成した糖質(有機物)の20%~40%
自らの成長のために使用せず、根圏に移動させ、根から滲出させます。
何故でしょう?
微生物のエサにするためです。

微生物にとってこのエサは御馳走で、これをもらうために根の周りに集まってきます。
このご馳走を増やす最も良い方法は植物の生育を促すことであり、
植物が元気で健康であればより多くの糖分(有機物)を根から滲出することが出来るからです。

このため微生物は様々な方法で植物の成育を助けています。
あるものは空気中の窒素を固定したり、土中にある不溶性のリンを可溶性に変えたりして
植物が利用出来るようにしています。
こうして植物が必要とする栄養素のほとんどが根からの滲出液と引き換えに、
微生物を介して取得できるのです。


奪い合いの競争ではなく共生

微生物種の豊かな土壌では、植物は単独で生きているのではなく、

植物の根は微生物の菌糸ネットワークで繋がっています。

下図の植物の根と根の間のモヤモヤが菌糸です。

驚くことに、植物間においても、このネットワーク経由で栄養の

やりとりがあります。

もし、ミカンの木が何らかの理由で元気が無くなった時には、

周りの雑草で作られた光合成産物が菌糸ネットワーク経由で

供給されるのです。

このように菌糸ネットワークが発達すると植物同士が栄養を奪い合

う関係ではなく、寧ろ助け合うようになるのです。

このような環境では雑草は最早、養分を奪う敵ではありません。

実は、一般的な農業と有機農業は、肥料にしても農薬にしても、
化学合成された物を使うか、天然由来の物を使うかの違いだけで、
作物を育てる方法に本質的な違いはありません。
通常、種を蒔く前に畑を耕起します。

このことにより土中の生態系は破壊されます。

加えて、土中に余計な肥料分を入れるため、上に記したような植物間、

植物と微生物間の共生関係を築く必要がなくなってしまいます。

各々が施された肥料を目当てに、互いに養分を奪い合う関係となってしまうのです。

そのような環境の下では雑草は作物に必要な養分を奪う邪魔な存在となり、

刈られたり、除草剤で枯らされたりして排除されます。

更に殺菌剤や殺虫剤等の農薬によって、生態系は壊滅状態となります。


このため人が肥料を与える等、人為的に栄養を与えなければ、
作物は育つことが出来ず枯れてしまいます。
自分の力で生きていないのです。

このような植物と微生物の有益な関係を利用して、農作物を育てる

自然農法は、唯一無二の究極のサステナブルな農業の形だと考えます。

自然農法は地球温暖化を防ぐ

これ以上の気象危機とそれに関連する災害を減らすためには、
大気中の炭素をこれ以上増やさないように、化石燃料の燃焼を食い止め
既にある空気中の炭素を除去する必要があります。
一体どこに置けば良いのでしょうか?
元にあった場所、つまり土壌に戻すのです。

耕起により、土中の有機物は空気に触れて酸化し、大気中に放出されます。
このことが地球温暖化の一因となっています。

他方、耕起しない、草を刈って土壌を裸にしない、肥料を施さない、農薬を使わない
自然農法では、光合成を通じて大気中の炭素を土壌に蓄えることができます。