瀬戸内海の青い海を見下ろす丘に、「燦燦(さんさん)農園」がある。ここでは、洋一と夕子が、太陽の光をたっぷり浴びたレモンや柑橘、キウイフルーツを育てている。二人の育てるレモンは、肥料や農薬を一切使わない「自然農法」で育っている。

ある日、街に住む10歳の甥っ子、颯太(そうた)が手伝いにやってきた。夕子は、たわわに実ったレモンの木を案内する。「わあ、いい匂い!でも、スーパーのレモンみたいにピカピカしてないね」と、颯太は少し不思議そうに言った。

洋一は笑って答えた。「そうだね。表面に少し傷があるのは、虫たちと共生している証拠なんだ。多くの農園では、虫がつかないように、そして見た目を綺麗にするために、強い農薬を使うことがあるんだよ」

夕子は少し真剣な表情で付け加えた。「特に気をつけたいのが『ネオニコチノイド系』という農薬なの。これは、植物の表面に塗るだけじゃなくて、根っこから吸収されて、葉っぱや果実の中にまで入り込んでしまう『浸透性』の毒なのよ」

「入り込んじゃうって、どういうこと?」と颯太。洋一は地面を指差した。「水と同じように、農薬がレモンのジュースの中にまで混ざってしまうんだ。そうなると、いくら皮を水で洗っても、中の毒までは消えないんだよ」

夕子は、颯太の手を優しく包んだ。「この農薬は、昆虫の神経を麻痺させる力があるの。でも最近の研究では、育ち盛りの子供たちの脳や神経にも影響を与えるかもしれないって言われているのよ。集中力が続かなくなったり、イライラしやすくなったりね」

「僕たちの脳にも……?」颯太は少し怖くなった。洋一は頷く。「だから僕たちは、魔法の薬(農薬)に頼らないんだ。自然の力を信じて、手間をかけて育てる。それが、レモンを食べるみんなの未来を守ることにつながるからね」

「見て、あそこにミツバチがいるよ」と夕子が指差した。ネオニコチノイド系農薬は、ミツバチが巣に帰れなくなる原因の一つとも言われているの。「ミツバチが元気に飛び回れる畑のレモンは、人間にとっても一番安全なのよ」

その日の午後、みんなで採れたてのレモンを使って、ハチミツ漬けを作った。夕子は言った。「私たちのレモンは皮まで安心して食べられるの。栄養も香りも、皮にたっぷり詰まっているんだから!」

燦燦農園のレモンは、酸っぱいけれど、体中が元気になる味がする。洋一と夕子は、今日も青い海を見つめながら、未来の子供たちの笑顔のために、魔法を使わないレモンを育て続けている。